三つ山課題からみる、発達障害を抱える子どもが他者視点で思考できない理由とは…

発達障害を抱える子どもが他者の視点で思考するのが難しいことは、心理学的にも広く認識されています。

この特性は、ピアジェが開発した三つ山課題(Three Mountains Task)で顕著に示されます。

三つ山課題は、他者の視点を理解し、異なる視点から世界を見ることができるかどうかを調べるために設計された発達心理学的な実験です。

発達障害を持つ子どもが他者視点の理解に苦労する理由について、三つ山課題の結果を用いて詳しく説明します。



三つ山課題の概要


三つ山課題は、子どもがテーブル上に配置された三つの山(大小さまざまなサイズ)を、異なる視点からどのように見えるかを推測する能力を測定します。

具体的には、テーブルの上に配置された山を子どもが特定の位置から観察し、他者が別の位置から見たときにどのように見えるかを推測するよう指示されます。

この課題では、視点転換の能力(他者が見ている世界を想像する力)が必要とされ、他者視点の理解度を測定するものです。



三つ山課題においては、視点取得(perspective-taking)、すなわち他者が異なる位置から物体をどう見るかを想像する力が重要です。

典型的な発達段階にある子どもは、4〜7歳頃に他者の視点を理解し始め、8歳以降には他者の視点と自分の視点が異なることを理解し、考慮できるようになります。

しかし、発達障害を持つ子どもはこの視点転換が難しく、特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)を持つ子どもは、他者の視点を取ることに顕著な困難が見られます。


発達障害を抱える子どもと三つ山課題の結果
三つ山課題において、発達障害を持つ子どもは、自分の視点から見える風景を他者の視点として答えることが多く、他者の視点を正確に想像することが困難であることが示されています。

以下に、発達障害の特性がどのように三つ山課題の結果に影響を与えるかを具体的に説明します。



1. 自閉スペクトラム症(ASD)と他者視点の理解


自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、他者視点を想像するのが非常に難しいことが知られています。

これは、自閉スペクトラム症(ASD)の特徴である「心の理論(Theory of Mind)」の発達の遅れや欠如に関連しています。

心の理論とは、他者の感情や考え、意図を理解し、それを予測する力のことを指します。

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、自分以外の人が異なる考えや視点を持っているという認識が希薄であり、そのため他者視点に基づく課題に対して混乱を感じやすいのです。

たとえば、三つ山課題で他者が異なる位置から見たときに見えるものを問われても、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは自分の視点からの風景を答えることが多いです。

これは、他者が異なる視点を持つことを理解する力が乏しく、他者の視点に立って考えることが難しいからです。

そのため、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは自分自身の視点をそのまま他者の視点とみなしがちです。



2. 注意欠如・多動性障害(ADHD)と視点転換の困難


注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは、注意の持続が難しく、衝動性が高いため、視点転換の過程で集中力が切れやすく、他者の視点に注意を向けることが困難です。

三つ山課題では、他者の視点を推測するために、現在の自分の視点から離れて他者の立場に意識を集中させる必要がありますが、注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは衝動的に自己の視点を優先しがちです。


たとえば、注意欠如・多動性障害(ADHD)の子どもは他者視点に注意を向ける前に、すぐに答えを出そうとするため、他者がどの位置にいるか、その位置からどのように見えるかといったプロセスを省略してしまうことがあります。

このように、注意のコントロールが困難であるため、他者の視点を取ることが難しく、結果として自分の視点から見た景色をそのまま答えることが多くなります。



発達障害を抱える子どもが他者視点を理解するのが難しい理由


三つ山課題の結果から、発達障害を持つ子どもが他者の視点を理解するのが難しい理由について、次のように整理できます。


 1. 視点取得の欠如


発達障害を持つ子どもは、視点取得、つまり他者の視点を「取得」してその立場に立つことが難しいとされます。

自分の視点から離れて他者の立場に立つことで、異なる視点から世界を理解する力が求められますが、この力は自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)の特性によって十分に発達しないことが多いです。


 2. 心の理論の未発達


心の理論の発達が遅れることで、他者が異なる考えや感情を持っていることを認識する力が不足しています。

そのため、三つ山課題のような他者視点を求められる課題で、自分以外の視点から物事を考えるのが難しくなります。



 3. 衝動的な応答と集中力の低下


注意欠如・多動性障害(ADHD)のように、注意の持続が難しい特性を持つ場合、他者視点を考える過程で集中力が途切れやすく、視点転換のために必要な手順を省略しやすくなります。

結果として、他者の視点ではなく、自分の視点から見える内容をそのまま答えてしまう傾向が強まります。




三つ山課題の結果を活かした支援方法


発達障害を持つ子どもに対して、三つ山課題の結果をもとにした視点取得の支援方法を考えると、以下のような方法が有効です。


 • 視覚的サポート


他者視点を理解する練習として、写真やイラストを用いて異なる視点からの景色を確認する訓練を行います。

たとえば、三つ山課題の模型を実際に回転させて、異なる角度から見える風景を一緒に確認することで、他者視点の理解を促進します。


 • ロールプレイ

ロールプレイを通じて他者視点を体験させます。

例えば、友達や教師などの役割を演じることで、相手の立場に立って考える練習を行います。

この活動は、他者がどのように物事を感じ、考えるかを理解するのに役立ちます。


 • 視点転換を促す会話の練習

日常の会話の中で、「○○さんだったらどう考えるかな?」と問いかけて、他者視点を意識させる練習をします。

これにより、視点転換が徐々に身につき、他者の考えを理解するスキルが向上します。



三つ山課題においての他者視点についてのまとめ


発達障害を持つ子どもが他者視点を理解するのが難しい理由は、視点取得能力の未発達、心の理論の遅れ、そして集中力のコントロールが難しいことに起因しています。

三つ山課題の結果を通じて、こうした視点転換の難しさが確認されますが、視覚的サポートやロールプレイ、日常の会話を通じて改善できます。


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車重徳

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